この記事は小説同人誌向けの話をしています。
ビジネス文書や商業書籍・商業デザインの話はしていません
あまりにもちょこちょこ小説同人誌の本文にMS明朝を使うことの是非/可否の話が上がって来るので、論争に終止符を打つためにこの記事を書きます。
まさかフォント単体記事を書くことになるとは思わなかったぞ。
しかしそれくらいもう何度も見る話題なんです。
そして物凄い勢いで論旨がズレていく内容なんです。
というわけで、MS明朝について、そして小説同人誌の本文にMS明朝を使うことについてお話したいと思います。
結論「MS明朝は使っていい」
小説同人誌の本文にMS明朝を「使っても良いのか悪いのか」、つまり使用可否の話だけ知りたい人はこれで終わりです。
MS明朝は小説同人誌に使っていい。
もうちょっと言います。
使って「いい」とか「ダメ」どころか、「Wordデータ(doc、docx)で入稿する人はMS明朝で」っていう指定が印刷所の案内に書いてあったりします。
PDF入稿の場合はフォント埋め込みをするのでフォント種の指定はありません。自由に決めて良いということですね。
但し、環境次第ではOS – 編集ソフト – フォント – PDF化ソフト間の相性が悪く、きちんと意図する通りにPDFが出力出来るのがMS明朝しかない、という人もいます。
印刷所はMS明朝で通ります。
フォント種で「通る・通らない」はないはず…不安ならそこら辺のツイートを鵜呑みにせず、印刷所の人に聞きましょう。
この話題、最終的に「MS明朝を使っていいのかダメなのか」という言い方になっていくので、先に結論を書きました。
下で書きますが、発端のツイートでは可否について触れていないのに、どういう訳かそういう方向に動いていきます。
この手の話題で「エッ 小説同人誌にMS明朝使っちゃダメなの、どうしよう」って思った人はご安心下さい。
これ以降は、何故そういう話になるのか? や、デザインについての話を書いていきます。
「MS明朝が嫌い」
だいたいこういう発言が発端になります。
「MS明朝が嫌い」
「MS明朝は汚い」
「本文がMS明朝だったら買わない」
これらの発言主は、あくまでも個人の主観、感情の話をしています。また、「買わないという選択をする」という話です。
発言主は「MS明朝を嫌い」と発言しているだけで、読み手に「あなたもMS明朝を嫌えよ」と言ってるわけではありません。
別にこれ自体は、本当に「好みの話をしている」だけなのでそれでいいんです。ひとつの意見ですからね。
しかし、この話が巡り巡って、何故かこう言われるのです。
「小説本文にMS明朝を使っちゃいけないの?」
これの前に、おそらく「MS明朝だと読まれない」→「読まれないんだったら使わない方がいいんじゃないか」という思考、あるいはそういった内容のツイートがあったと思うのです。
しかしハッキリと「使ってはいけない」とは、「嫌い」と発言した誰もが言っていないのです。
嫌いと使ってはいけないは全く別の意味です。
この↑疑問形の発言を読んだ人が、oO(MS明朝を使ってはいけない、とツイートした人がいる…?)と誤解する。
→最終的に「MS明朝は使っちゃダメってどっかで見た!」と、かなり断定的に言う人が現れる。
…というのが、私の推測する流れです。
それと、この記事の先頭で「同人誌の話をしている」と明記しました。
この話題で、何故かビジネス文書の話をしだしたり、小説同人誌に商業書籍のようなデザインを求める人が出てくるのですが、それはまた別の話。論点がズレてますからね。
更に、もっと酷い言い方をする人もいるのですが――ここに書くことでもないので割愛。
*
初心者の皆さんへ。あるいは、MS明朝を使い続けている皆さんへ。
たとえ上の――発端のような意見、それに似た意見が大拡散されていても、それは買い手の総意ではないということを覚えておいてください。
そして「使ってはいけない」というルールはないということも覚えておいてください。
再度言いますが、MS明朝でも印刷所は印刷工程上問題がなければ印刷してくれます。
同人誌を作る皆さんは「買う・買わない」の話題には非常に敏感になってしまうことと思います。
ですが、フォントで「買わない」選択をする人はごくごく僅か、一部にすぎないのです。
そもそも何で嫌われてるの?
多分こう
- 小説本文に使うようなデザインのフォントじゃない
- 文字デザインが他のフォントに比べて不揃い、整っていない
- OS標準のフォントなので使う人が多く、ありふれてて見飽きてる。
小説本文の話題としては(A)の意味でしょう。
デザインの話題としては多分(B)の意味。
(C)は……個人の好き嫌いの問題かな……?
(A)小説本文向けのデザインかどうか。
MS明朝は確かに「小説本文用」のフォントではありません。
「それを目的として開発されたフォントではない」ということであり、使ってはいけないという意味ではありません。
MS明朝はWindows3.1の頃から搭載されているフォントです。
Win3.1の頃というと、ディスプレイ解像度も低かった時代。
低解像度ディスプレイでも文字が判別出来るように、全体的に大ぶりにデザインされたのがMS明朝です。
当時は、日本語のTrueTypeフォントがなく、リコーが米国マイクロソフトと共同で試行錯誤しながら開発しました。 そのころは、ディスプレイの解像度が低く、小さな画面で、いかに小さい文字まできれいに表示させるかということでいろいろな工夫をしました。 その後、様々な進化をしながら、18年間にわたってずっとWindowsの標準フォントとして使われています。
――「MSゴシック」、「MS明朝」についてのお話 | リコー
元記事が別のURLに転送されるようになったのでWebアーカイブへリンクしています
開発元のドキュメント大事なので消さないでくださいよ…
一般的に「本文用として読みやすいデザイン」として代表的に挙げられる要素が「漢字よりも仮名が少し小さめ」。
なので、この「大ぶり」なデザインというのは、この「読みやすい」デザインとは合ってません。
「本文用」としてデザイン・開発されたフォントと比べたら、読みにくいと感じるのもある意味当然。
ただし、あえてMS明朝を使う人の中には、「その大ぶりなデザインだからこそ」使っているという人もいます。
(B)他のフォントと比較して
あくまでMS明朝はデザイン用・印刷用ではなくディスプレイ表示用として開発されたので、デザイン用・印刷用に開発されたフォントと比べること自体が誤りであるのではないか、ということは先に述べさせていただきます。
以下の画像は他の標準フォント、フリーフォントと比較してみた例です。
この画像を見てもピンと来ない人はいると思います。無理に理解しなくても良いとも思います。
最終的にはこの話は「感覚」で話をせざるを得ないからです。
文字ひとつひとつを比較してみると、そこまでじゃなくない…? って感じなのですが、これが文章になると印象が違うのかなぁ…
この記事書いてる本人は「MS明朝とはこういうデザイン」と思っていて、どっちかといえばフォント選択は「このフォントが嫌いだから」ではなく、「このフォントの方がイメージ合ってていいと思うーーーー!!!」という選び方をするので良く分からないってのが正直な感想。MS明朝かどうかはなんとなーく見て分かるけど、「別に読めない訳じゃないし良くね?」と思っている人。
感覚なんです。理論的に「この辺がこのくらいの割合で空いている」や「こういうエレメントの具合」で「こういう印象になる」みたいに言えないんです。
これはMS明朝に限った話ではなく、全てのフォントに当てはまります。
何故かMS明朝の話ばかり見ますけど、そういえば他のフォントの好き嫌いってあんま見ませんね。(話ズレた)
余談:標準フォント
現在のMac標準搭載のフォントはヒラギノシリーズやHelvetica、Futuraなど、デザイナー御用達フォントが多数です。
ヒラギノシリーズは”広告見出しから書籍本文まで幅広い用途に対応”がウリなので、小説本文に使ってももちろん綺麗です。
これが「標準フォント」であることから、どうにもMS明朝と比較されがちです。
推測でしかありませんが、WindowsとMac(Macintosh)のOSとしての方向性の違いからかもしれません。
Macは以前(現在もなのか?)「グラフィックやるならMac使え」と言われていたほどなので、Mac自身、よりデザインに特化していくために、そういったフォントを採用している可能性がなくはないな、と感じています。
MacはDTPを一般化させたOS、という記述もあります。
一方、Windowsはユーザー層が非常に幅広く、「何かに特化している」というわけではないと認識しています。
Vistaでメイリオ、8.1から游明朝・游ゴシック、Windows10 October updateでモリサワBIZ UDフォントが追加されました。
メイリオは、ディスプレイ表示・印刷のどちらにも対応するように、主に横書きの可読性を重視して作られているとのこと。
游明朝、游ゴシックは最初からデザイン用途で設計されているフォントです。ヒラギノシリーズを開発した字游工房制作で、購入するとそれなりのお値段なんですが、それがWindowsに実装された、と一部でざわざわしたらしいです。そんなフォント、搭載経緯が分からない(知ってる人教えて!)
モリサワBIZ UDについても搭載に関して詳しい経緯が見つかってないですが(あったら教えて!)、昨今の「UDフォントを使おう」の流れに沿ったのかもなぁ、と思っています。こちらは明確に印刷用です。
しかし、新しいフォントが追加されても、MS明朝やMSゴシックは削除されていません。
おそらくWindowsの過去Verとの互換性を残すため、あるいはシステムフォントとして「どこか」で使うために残してあると推測します。
(C)見飽きてる
どう読んでも個人の好みでしょうね…
調べた中で判明していない事項
MS明朝論争の件で色んなものを読んでいるんだけど、その中で「MS明朝は単純に不出来、低解像度時代に作られたからではない、その時にも綺麗なフォントはあった」というコメントがついていて、しかし具体的なフォント名を挙げていない。
その綺麗なフォントとは一体何か。— アカツキユウ🌙📕🥼 (@akatsuki_yu) October 29, 2019
うろ覚えですが、クラシックMacのOsakaフォントと対比されていた記憶があります。私は当時Windows使いでしたが、Mac搭載のフォントはMS書体より見やすいという評判は聞こえていました。
MS書体を嫌う方々の結論は結局「みんなもMacを使えばいい!」ばかりで、論点が常に噛み合ってない印象です・・・— Gutenberg Labo (@Gutenberg_Labo) October 29, 2019
結局このフォントが何だったのかは分からないけど、MS明朝の話のところにOsakaのことを書いてるんだとしたら、「せめてMSゴシックの話題の時に書け」と言わざるを得ない
最後に
フォントに対する印象は人それぞれです。
MS明朝に限らず、フォントに対して、ある人は「綺麗」だと言い、ある人は「クセがある」と言う事例もあります。
「読みやすい」と言う人、「読みにくい」と言う人もいます。
組版、フォント選択も人それぞれです。
こだわる人もいます。
こだわらない人もいます。
とりあえず本の形になればいい、という人もいます。
選択肢をまだ知らない人もいます。
同人誌は趣味の出版物です。
印刷工程上、あるいは内容そのものに問題がある場合を除けば、それ以外の部分にルールはありません。
小説同人誌においては、「こうするとより読みやすい」「このフォントを使うとより読みやすい」など、モアベターである要素はあっても、「組版はこうしなければならない」「このフォントを使ってはいけない」などのルールはない、正解はないのです。
Twitterは疑問でさえもソースとして扱われます。
上で書いた通り、疑問は最終的に断定的な意見へと変化します。
「嫌い」という意見が「使ってはいけない」という意見にすり替わるのを阻止したくて、私はこの記事を書きました。
MS明朝論争に終止符を。
余談:フォントについて
今回はMS明朝についての話なので、他の明朝体についての詳しい話はなるべく割愛しました。
他のフォントに興味がある方は、OS標準搭載フォントを含め、小説同人誌向け、だけでなくたくさんの明朝体を集めた当サイトの記事をご覧ください。
2019.11.18現在:以下のまとめは大幅な更新を行う予定です。掲載内容が大きく変わることはありませんが、情報は整理する予定です
また、ライセンスの話についてはこちらの記事をご覧ください。
Windows標準フォントの”今”
よろしければ
今後ともまとめを作っていきたいと思います。
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