小説本の読みやすさと文章の詰め込みは両立出来るか?

皆様こんにちは。アカツキユウです。
創作にお忙しい合間にお読みいただき有難うございます!

今回はある程度の「読みやすさ」を確保しつつ、出来る限り紙面に文章を「詰め込む」レイアウトを考えてみる記事です。
皆様の小説本の参考になれば幸いです!

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きっかけ

先日、拙作小説ページ数カウンター宣伝して下さった方がおられまして。
有難いことにかなりたくさんの方に拡散されて、ツイート機能もたくさん使っていただけました。
そこでツイートされたものを眺めていたのですが、いくつか気になるツイートがありました。

40字~×18~20行×2段、のようなページ設定のツイートです。

デフォルトで表示している42字×17行×1段を単純に2段にしているのだろうな、という方もちらほらいらっしゃいましたが、それ以外の設定の方も見ました。
「これはどうやって詰め込むのか…?」と思い、実際に作ってみました。
そして、今度は「どこまで詰め込めるんだろう…?」という興味が湧きましたので、具体的に「詰め込んだ」紙面を作ってみました。

今回、「実際に詰め込めるのか」の部分については設定の話ですので、どなたでも試せます。
一方、「読みやすいかどうか」の部分については超主観の話になり、全ての人が同じように感じるとは限りません。
設定の一例として、そして参考としてお読みくださいね。

あと、該当の設定をツイートした方をけなしたりする意図はございません。
「入るの?」とか「どこまで詰められるの?」という純粋な疑問の方が強くて実際にやってみて書いた記事です!
よろしくお願いします!

42×17×2を実際に組んでみた

というわけでさっそくですが、件の42字×17行×2段を実際に組んでみます。
今回はWordで制作しています。

42字×17行というのは商業文庫でもかなり詰め込まれている方で、正直A6ではこの字数行数で2段にすると入りません。というか1段でもみっちみちです。
A6の42字×17行×1段はこれです↓

……が、無理やり詰め込んでみました。
下の画像は、1枚目がA6、2枚目がA5です。
用紙に対する文字の大きさを比較できるよう、A6はA4サイズに貼り込んであります。

A6の設定値
文字サイズ:4.5pt
余白:上下(天地)4mm、内側(小口)11mm、外側(ノド)16mm

A5の設定値
文字サイズ:6.5pt
余白:上下(天地)6mm、内側(小口)11mm、外側(ノド)18mm

印刷してみましたら、A5はギリ読めなくはない感じでしたが、A6は紙で読むにはメチャ小さかったです。
スマホで小説読むのより小さいです。
画像から分かるように、文字が小さくなった分、行数をそのまま17にしておいたら、行間がめちゃくちゃ広くなってしまいました。

iPhone8でPixiv小説を表示したものと比較(Pixivアプリの文字サイズは最小)

「読みやすさ」と「詰め込み」の両立を図る

ここからが本題です。
一定の基準に基づいた「読みやすさ」を確保しつつ、何処まで詰め込めるんだろうか? というチャレンジです。
ひとつひとつ「読みやすい」を考えながら進めていきます。

「読みやすい」小説本文の文字サイズは?

最初に「読みやすい」文字サイズを考えます。
小説は文字を大量に読みますので、小さな文字を、目を凝らして眉間にしわを寄せながら読み続けるのは疲れてしまいます。
かといって大きすぎても紙面からの圧がすごいです。

今回は「詰め込む」ので文字サイズは出来るだけ小さくします。
ここは商業の小説本のサイズを参考にします。
商業の本は「ある程度」読み手の「読みやすさ」を考慮して作られているからです。

現在、書店で販売されている小説本の判型は

  • 文庫
  • 新書判(サイズがバラバラ)
  • B6(に近いサイズ)ソフトカバー
  • 四六判
  • A5(文芸雑誌)

くらいでしょうか。
同じ出版社や同じレーベル、同じシリーズ内でも組版設定は統一されていない場合があるようです。
こちらのツイートをどうぞ。
https://twitter.com/okakkie/status/1288131416169971712

ある程度調査すると「だいたいこの範囲」という設定が出て来ます。
下は私が調査した商業文庫・新書の組版設定です。

今回は「詰め込む」ために文字サイズ小さめを想定しますので、この一覧内で最も小さい文字サイズを採用します。
調査した中で最も小さかったのは電撃文庫の11.5Q、ptに換算すると8.1811ptになりますが、面倒なので8ptにします。

「読みやすい」行送りは?

上の表では商業小説の行送りは150%~180%の範囲に収まっています。
最も行送りが広い(180%)偕成社の本は児童書で、文字サイズも大きく設定されています。
一方、文庫では150%になっているものも多く見られます。
私が商業小説を参考に制作したテンプレートも概ね150%~155%の範囲で制作していますが、これで「詰まっている」と感じる人も少なくないようです。

今回は詰め込むことを想定してはいますが、ある程度の読みやすさを確保するために155%を下限、165%を上限として作ってみることにします。

「読みやすい」1行字数は?

上の表では1段組の小説では39字~43字の範囲に収まっています。
表に入っていない小説もいくつか調査してみましたが、最も多かったもので49字、次点で45字。それ以外は概ね43字以下に設定されていました。
この49字と45字はいずれも四六判やB6ソフトカバーなど判型が大きいものでしたので、文庫ではこの数を詰めるのは難しいです。42字でも詰め詰めです。

人の目では無理なく読める1行字数は43字以下だと言われています。
これは複数の記事や書籍に記載があります。
私が「磯野ー! 小説同人誌作ろうぜー!」で紹介している「マネするだけでエディトリアルデザインが上手くなるはじめてのレイアウト」という本のp45に記載がありますので、お持ちの方、興味がある方はご覧ください。

1段組で詰め込む場合は43字、多くても45字以下にするのが良さそうです。

今回はとにかく「詰め込む」ことを想定していますので、設定は2段にします。2段の方が詰め込める数が多くなります。
例ですが、私が過去に作ったテンプレでは43字×24行で1,032字。(単純計算)
私が出しているA5の2段組テンプレで1番文字数が多い28字×24行×2段は1,344字。(単純計算)
2段の方が多いのが分かりますね。

それと、2段の方が1行字数が少なくなるので、その分行内が埋まりやすくなります。
たとえば、15字の行があるとして、1行字数28なら残り13、1行字数43なら残り28になります。
使わなかった文字数の部分が少ないほど、「詰め込めている」と言えるでしょう。
という意味でも、「詰め込む」なら2段の方が良いでしょう。

最初の検証から、2段の場合は40字詰めるのは読みやすさ的な観点からは厳しいので、40字未満になるでしょう。

3段はどうか?

小説同人誌を単行本同様とみなすのであれば、あまり3段は使われていないように思います。
文芸雑誌には3段の小説がありましたが、大きな判型の本でも3段の存在は確認していません。
どっちかっていうと、3段以上は小説よりも、コラムやインタビューなどで使われてる印象ですね。
3段の小説単行本をお持ちの方は教えて下さい。

B5サイズのアンソロなら3段は有効だと思います。
面積が広く、どう2段を組んだとしても、どうしても余白が多くすかすかになりがちなので。
以前B5サイズのアンソロ用テンプレを制作していますので、よろしければご参考に。
AL-アンソロ用小説テンプレート – ALBA LUNA Onlineshop – BOOTH

余白を考える

天/地、ノド/小口と段間の余白のことも考えておきます。
文字サイズや行送りほどダイレクトには「読みやすさ」に影響しないとは思いますが、余白をあまりあけずに詰め込みすぎると紙面の圧迫感が強くなるので、ある程度あけます。

まず、段間の余白は最低でも2文字、多くとも4文字が良いそうです。
Wordではページ設定の画面で段間を決められないので、ページ設定を決めた後に「段組」のプロパティで調整するとして、とりあえず何文字分相当にするかだけ考えておきます。
今回は2~2.5字の間くらいにします。

天地余白については、本文が天寄せになるとハードなイメージ、それより地寄せになるとソフトなイメージになるそうです(「マネするだけで~」より)。
また、具体的には天は4字分以上あけるとのこと。なので、少なくとも天は11mm以上あけます。
そして今回は下ノンブルにする想定で進めますので、地は天より少し多めに取ります。
天11mm、地12mmを基本として微調整します。

小口は指で押さえる部分になるので、それを考慮してきちんと取っておきます。じゃないと指で隠れてしまう。
マネするだけで~」によれば、4文字分以上あると良いとのこと。
今回は文字サイズが小さめなのもあり、計算せずに12mmを取ります。
(計算では11.2~11.5mmくらいですが、これだと狭く感じると思います)

ノドはギリギリまで攻めたいところですが、本文用紙のかたさやページ数によってはノドが少なすぎると本を強く開く必要があり、この「開きやすさ」をもって「読みやすい・読みにくい」と評する人もいますので、ある程度取っておきます。
今回は17mm取ります
私主催で制作した500pのアンソロは17mmで無理なく読めました。
但し本文用紙が結構薄いものを使いました

実際に「詰め込み」レイアウトを作る

ここまでの情報をもとに、いよいよ「詰め込み」レイアウトを作成します。

仕上がりサイズ:A5
方向:縦書き
段数:2
文字サイズ:8pt
上(天):11mm
下(地):12mm
内側(小口):12mm
外側(ノド):17mm
フッター:6mm(文字サイズ6pt)

ここまで入力したら、字数と行数はWordに計算させます。
文字数は「字送り」の数字を決めて確定させます。文字サイズが8ptなので、字送りも8ptにします。
ここでは31字になっています。

行数は「行数」の数字をいじって、行送りの数字が155%~165%の範囲に収まるところで確定します。
今回は文字サイズ8ptなので、12.4pt(155%)~13.2pt(165%)の間に決めます。

27行:12.45pt
26行:12.95pt
25行:13.45pt

たくさん入るのは27行みたいなので、今回は27行を採用
OKを押して確定します。

次に「段組み」の設定をします。


「レイアウト」タブ>段組み>詳細設定を押します。


「段の幅」を「32字」にしてOKを押します。

Wordの行間問題をクリア

行間をきちんと固定してやります。


「ホーム」タブ>スタイルの「標準」のところで右クリックして「変更」を選択


左下の「書式」を開いて「段落」を選択


画面右下あたりの「行間」を「固定値」に、間隔を「12.45pt」にして「OK」

行間が変わっていないようであれば、文章を全選択して「標準」スタイルをクリックすれば行間が正しく設定されます。

出来たレイアウトがこちら

こんな感じです。
ノンブルと文章の位置が近すぎるので、

  • 1行字数を減らす
  • 位置を小口に寄せる
  • 上(天)余白を減らして下(地)余白を増やす

のいずれかで調整してもいいかもしれません。

番外:「読みやすい」フォントを考える

今回は文字をとにかく詰め込んでいるので、フォント選択もある程度重要になるかと思います。
というのは、MS明朝などの大ぶりなフォントはもちろん避けた方が良いですが、文芸向けを謳っている細身で小ぶりなフォントでも、ある程度大きい小さいがあるからです。
今回くらい詰め込んだ設定の場合は、文芸向けの中でも特に細身のフォントを選択するのがおすすめです。

  • 游明朝Light~Regular(游明朝はRegularでも細め)
  • 源暎こぶり明朝・ちくご明朝
  • しっぽり明朝Regular
  • イワタ明朝オールド
  • リュウミンL

など。

詰め込む必要はあるかを考える

今回は一定の指標にもとづいた読みやすさを確保しつつ、とにかく詰め込むことを目標に制作しました。
「文字数が多いが、分冊もしづらいので、1冊にまとめたい」とか、「文字数がそれほど多いわけではないがページ数を少しでも減らしたい」などの要望があるときに有効な手段だと思います。
なるべくページ数を減らすことはいいことですが、もしこの詰め込みレイアウトを使ってもページ数が多い場合は、分冊を考えた方がいいかもしれません。
今回は特にA5サイズで作ったということもあり、ページ数があまり多くなると、軽い紙を使ってもかなりの重量になることが見込まれるからです。

上でちらっと書いた500pのアンソロはマンガ・小説・イラスト混合ですが、1冊600gを超えており、とてもじゃないですが手で支えて読む本ではありませんでした。
あれは机の上に置いてめくって読む本でしたね…。

おわりに

小説のレイアウトは、字数・行数設定に「正解」はありませんので、今回作ってみたレイアウトも、あくまでひとつの例にすぎません。
一定の指標に基づいて、とはしたものの、読み手だけでなく、作り手側もこれで「読みにくい」と思う人もいるかもしれません。
ですが、ある程度作り手の参考になることを期待して、この記事を公開します。
是非自分だけの「詰め込み」レイアウト、必要な方は試してみてくださいね。

作成したテンプレート

今回制作したテンプレートはTemplateのページで配布しています。
もしくは同じテンプレをBOOTHの小説本文テンプレ第2弾のページで配布しています。
どちらからダウンロードしても同じデータですので、お好きな方からダウンロードしてください。

よろしければ

今後ともまとめを作っていきたいと思います。
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