「何文字あれば本に出来るの」

小説本を作りたい人向けのまとめを始めて数年。
今回の記事のタイトルのようなことを発する人を度々見かけておりました。
この「何文字あれば本に出来るの」という言葉について、やっと「もしかして、こういうことを言いたかったのではないか?」というひとつの解にたどり着いたので、その話を書きます。
「初心者さん」と「経験者さん」との知識、認識、視点の差が少し埋まるといいな、という期待を込めて。

[Ad]

目次 [目次を閉じる]

  • きっかけ
  • 文庫を作りたい人の「ご要望」
  • 文庫は「作れる」
  • 小説本の厚みと字数
  • 初心者の方へ
  • おわりに

きっかけ

Origa Designさんのこちらの記事とツイートを読みました。

最初、記事を読む前にご意見ツイートをし始めてしまったのですが(すみません…)
冒頭の部分をざっくり抜き出すと、「6000文字の小説を持ち込み、『文庫を作りたい』というご依頼があった。しかし依頼主の想像よりもページ数が少なく、キャンセルとなった」というお話が記載されています。
記事にはOriga Designさんのおすすめ仕様や発行までのスケジュール例などが載ってます。「あくまで一例」とのことですが、どうぞご参考に…

文庫を作りたい人の「ご要望」

ここからは上の記事とは話が逸れ、この記事の本題になります。
この話を読んだ時、私の頭にはタイトルの「何文字あれば本に出来るの」という言葉が浮かんでいました。
この言葉と、記事の「文庫を作りたい」という要望に、ちょっと関係性を感じたからです。

この「文庫を作りたい」「何文字あれば本に出来るの」という要望について考えてみます。
記事にはあくまで「文庫を作りたい」という言葉しかありませんし、私が頭に浮かべた「何文字あれば本に出来るの」も調べていたときの原文ママです。

上の記事の例では「依頼主の想像よりもページ数が少ない」という理由でキャンセルとなった、とあります。
想像。文庫の小説本といえば、本屋さんに並んでいるあのイメージです。
ラノベレーベルにしろ、非ラノベレーベル(あれ何て呼ぶんでしょう?)にしろ、本を読む人にとって、文庫本というのは超見慣れた物であります。
ですから、「同人誌で文庫本を作りたい」と考えた時に、真っ先に思い浮かべるのは、依頼主の本棚にある、数々の文庫本なのではないか? と、この話を読むうちに思いました。
手持ちの小説を持って、商業文庫のような仕上がりを求めてデザイナーに依頼したが、小説は6000字のみ。どう頑張っても商業文庫の厚みには程遠かった……ということだったのでしょう。

上の例の「文庫を作りたい」、そしてタイトルの「何文字あれば本に出来るの」、には「商業文庫のような、厚みのある小説本を作りたい」、「その為に何文字必要なのか」という要望、願望が前提条件として隠れていたのではないか?
と、思いました。
もちろんこの2つの言葉が必ずしもその意味を孕んでいるとは限らない訳ですが、少なからない割合ではあるかもな、とは思いました。

その気付きを得たツイート。

文庫は「作れる」

ここで「経験者」――本記事においては「作り慣れた人」視点の話をします。私も「作り慣れた人」側の視点になります。

本文6000字でも文庫本は「作れます」。
その設定だと、約12~16ページくらいですね――

と言った具合になってしまうわけですね。「作れる」から。

「何文字要るの」という問いかけについてもそうです。
単純に「要る」という話であれば、慣れた人なら「4ページ(A4両面コピーで折ってA5にするような想定)だったらだいたい2000字あれば作れるよ」のような回答をするでしょう。

しかし、質問者の内側には上の項で書いたような「商業文庫のような厚みがある本を作りたい願望」が隠れている可能性があります。
このイメージが隠れている人の場合、「想像と違う」となってしまい、意見がすれ違ってしまう可能性があるのではないかと思います。

この願望をお持ちの方、経験者に作り方を聞いたりする際には、どうか正確に「商業文庫のような厚みがある本を作りたい」とお伝えしてください。
こうお伝えすれば、最優先の要望が「厚み」になりますので、それを前提に経験者の方も答えて下さると思いますので。

小説本の厚みと字数

それでは実際に「商業文庫の厚みを目標とした文字数」の具体例を書いていきます。
初心者でも主に印刷所の候補を絞る目的として知って損はないので是非。
本文を自分で作って表紙を依頼する方式を取ろうとする人でもやはり知ってて損はないです。

まず、小説本の厚みを決める要素は

  • ページ数
  • 紙の厚み

になります。
字数はページ数を決める要素のひとつですので、ページ数の所に書きます。

一般的に商業文庫の厚みは

薄いもの:約8mm
平均:10~13mm
ずっしり:20mm
モンスター:ホラ●ゾン、京極●彦

くらいだと思います。
8mmより薄いものもありますし、20mmを超えるものもあります。
なお京極●彦はそのあまりの厚みに専用の製本仕様(背糊とか)が存在するという噂。

実際に目指す本の厚みを測ってみてください。雑で構いません。測るのは厚みのみです。
どういった紙を使っているのかが本によって違うので、測る本のページ数は参考にしないことにします。

ページ数と字数

字数はページ数に必ずしも直結するわけではありません。
というのは、ページ内の1行字数と1ページ行数によってページ数は変動するからです。
たとえば、冒頭の6000字でも40字×16行なら約14ページ35字×15行なら約17ページになります。
私が持っている商業本で最も少ない字数設定は角川mini文庫(変型サイズ)の30字×14行、これだと21ページです。

また、140字SSを1作品1ページとするなら、100作品集めると100ページになりますが、字数はあくまで14000字です。
普通に書いて14000字だと、文庫でおよそ24~40ページほどに出来ます。

このように、字数が少なくても、上記の組版設定をいじることで、ある程度はページ数を増減することが出来ます。これは小説本ならではです。マンガでは出来ませんからね。羨ましい
しかしある程度です。さすがに組版設定をいじっても限界があります。そこはデザイナーでもどうにも出来ないのでご容赦下さい。

紙の厚み

紙には厚みがあります。上で書いた通り、この紙の厚みと枚数で背幅は決まります。
#小説同人推し印刷所2020」上位印刷所の常備用紙からリストアップ。

  • ソリストSP 75kg(OneBooks):0.15mm
  • ソリストN 75kg(OneBooks):0.15mm
  • メヌエットフォルテC 66kg(OneBooks):0.14mm
  • RTクリームラフ67kg(OneBooks):0.13mm
  • RTライトノベル(OneBooks):0.12mm
  • 書籍用紙クリーム(コミックモール):0.12mm
  • 美弾紙ノベルズ(BRO’Sなど):0.12mm
  • 淡クリームキンマリ90kg:0.12mm
  • 淡クリームキンマリ72kg / 72.5kg:0.097mm
  • ワンブックスノベル(OneBooks) :0.09mm
  • 淡クリームキンマリ62kg:0.085mm

背幅は 紙厚×枚数 で出ます。
※枚数=ページ数÷2
100枚=200ページある場合、上のソリストSPなら15mm、淡クリームキンマリ62kgなら8.5mmとなるわけですね。

背幅には表紙用紙の厚みも含むので、正確な背幅は印刷所の計算フォームとかで出しますが、今回はページ数の目標を決める為に雑に計算出来ればOKです。

よく使われている本文用紙

おそらく最近の小説同人誌で最も使われているのは淡クリームキンマリ72kg(72.5kg)と思われます。
上のリストの淡クリームキンマリ以外の用紙はいわゆる「嵩高用紙」で、厚みがあってもやわらかく軽くめくりやすいという特性があります。
対し、淡クリームキンマリは上質紙とほぼ同じ紙厚で、同じ紙厚の嵩高用紙と比較するとちょっと固くて重くなります。

もしページ数が少なくても厚みを出したい! ということであれば、このリストの上の方の用紙を検討してください。
但し、ほぼOneBooks限定…

今回の具体例では比較的常備している印刷所が多い美弾紙ノベルズ(0.12mm)と、大多数の印刷所で常備されている淡クリームキンマリ72kg(0.097mm)を使用する前提で書きます。

背幅から必要なページ数を算出する

まずは背幅を決定します。
今回は8mmと12mmを目指すと仮定します。
各本文用紙で必要な枚数を算出しましょう。

美弾紙ノベルズ

8mm÷0.12≒67枚(=134p
12mm÷0.12=100枚(=200p

淡クリームキンマリ72kg

8mm÷0.097≒83枚(=166p
12mm÷0.097≒124枚(=248p

もうこの時点で必要ページ数に差が出ているのが分かりますね。
これは書籍における本文(ほんもん)、つまり表紙や遊び紙などを除いた部分の枚数になりますので、中扉や奥付などのページも含めてこのページ数が必要ということになります。
また、章扉などが入る場合は小説本文に必要なページ数はもっと減ります。
ひとまず、今回は事務ページを4ページ、章扉などは無しとして、残りを小説本文に全て当てる想定とします。

ページ数から字数を算出する

計算には私製のページ数カウンターを使います。
全く正確ではありませんが、参考にはなると思います。
小説ページ数カウンター

色々設定項目がありますが、今回は少なめの字数にしてページ数を多くすることにします。
字数:39、行数:16、改行:もっと多め

文庫だと大体40~42字、16~17行の設定が多いようですが、新書判、特に児童書だと37字×12行という設定も存在します。
今回は採用しませんが、参考までに。

上のページ数の近似値が出るように字数を設定して計算した結果がこちら。
131p : 52000字
199p : 79000字

162p : 64000字
244p : 96500字

ツールの計算はあくまで雑計算なので、もっと少なくてもこのページ数を達成出来る場合も、逆に出来ない場合もあります。
※現Verでは字数が増えるほど誤差が出ます。

結論:商業文庫の「厚み」を目指すなら、6~10万字くらいあると確実。

初心者の方へ

今回は「商業文庫のような『厚みがある本』を作りたい」という要望を最優先にした人へ向けた記事を書きました。
同人誌を作るのが初めてでも、商業文庫のような本が作れたら素敵ですよね。
であれば、実現するために何が必要か、をあらかじめ知っておく必要があります。
具体的には、上で計算したような分量の小説が必要です。

ひとつの作品でこの文字数を目指すのは難しいかもしれません。
しかし、小説本の中身はひとつの作品で埋める必要はありません。

6000字の小説も10作集めれば6万字です。
3000字なら20作。
Webで書いている人は、1ジャンルで3~5作くらいは書いたりしていませんか? なら、それを集めればいいのです。

ひとによって、長く書くのが苦であるか、そうでないかは違うと思います。
短い作品しか書けないから厚みのある本は難しいんじゃないか…と思う人も、短編集ならいけるかもしれない。
どうか「作りたい、作ってみたい」を簡単に諦めず、模索してみてください。

もうひとつ。
もしあなたが、「厚みのある文庫本が作りたい」という要望ではなく、「小説本とは文庫というサイズで厚くしなければならない」のような必須事項(マスト)だと思っているなら、私は「そうではない」と答えます。多くの経験者もきっと「そうではない」と答えるでしょう。
同人誌は自由に作れる、作って良い本です。
厚くても同人誌。薄くても同人誌。
文庫サイズである必要はなく、新書でもB6でもA5でも――B5でもA4でもいいんです。
最終的に「読みやすさ」を追求するとA5以下に収束する気はしますがそれはまた後々の話でしょう

是非、あなたが小説同人誌を作る上で「何を重視するか?」を、作る前にちょこっと考えてみてください。

私は初めて小説同人誌を作る人でも、なるべく「作り方を知らなくても作る」手助けとして小説本データを作るための記事を書いたり、サービスを提供したりしてますが、ある程度の知識は必要です。
どうしても、「作者≒依頼主」が決めなければならない、あるいは作者が作らなければならない事項っていうのは、存在するので。

ご提案は出来ます。
でも作品を書くのは依頼主さん、同人誌の仕様を決めるのは依頼主さんなのです。

おわりに

小説同人誌を初めて作る人の中には色々な願望、要望があると思います。
今回の記事は、そんな要望を叶える為のひとつの参考となればいいなと思ってます。
あなたの素敵な「1冊」の助けとなれば幸いです。

よろしければ

今後ともまとめを作っていきたいと思います。
マシュマロへ応援メッセージや、Donationのリンクからお茶奢っていただけたりすると励みになります~よろしくお願いします!

Donation